皆さん、おはようございます。
前回のブログ「鳥居」に関連し、今回はタイトルにも
ありますように当社の鳥居についてのお話です。
前回、鳥居には多くの形態が存在するとお話させて頂きましたが、
形の分類では当社のものは「明神鳥居」になり、材質は御影石(花崗岩)で
出来ています。台石の上に鳥居が立ち、額束はこちらも石製で出来ており、
「氷川社」の御神号と二匹の龍の彫刻が施されております。ただ残念ながら
落下防止の為ステンレス製の枠に収まっているので、現状ではその様子を
見ることが難しくなっております。
そして、二本の柱には正面左に「國土安全」、右には「天下泰平」と
彫られていますが、参道の榊の木の枝に遮られ右側は上手く全体を臨む
ことが出来ません。
左:「國土安全」と右:「天下泰平」
鳥居をくぐり、反対側から見ると何やら難しい文字が・・・。
いくつかの文字は現在使われていない、もしくは異体字である為、外字を作り
ましたが、文字化けしてしまうと思いますので、「銘」を画像とし、文字変換の
出来ない異体字は常用漢字を下段の()内に表しました。また後述するそれぞれの
文字の説明に関しましては予め常用漢字を使用させて頂きます。
それでは先ず、神社の御社殿側から見て右側には、
そして左側には、
と漢文調で彫られています。
漢文は苦手ですが、先ず、其々の字の意味などを右側から考察してゆきたいと思います。
◆「維」は①綱、②筋道、③繋ぐ、④支える、⑤思う、⑥これ、ただ。
文頭にあること、また文章全体から見て⑥の「これ」ではないかと思います。
◆「是」は日本語と中国語の意味を併記しますが、
先ず、日本語では、
①正しい、②この、③これ、④ここ、⑤このように。
そして中国語では
①~である、②~が在る、③選択疑問で「~するか、それとも~するか」、
④語気を強め「確かに~だ」、⑤~だけれども、⑥全て、
⑦ちょうどいい(ぴったり)、⑧正しい、⑨これ、この。
というような意味が日本語と中国語にはあります。それではどの意味が相応しいのか?
中国語の①の意味、つまり英語でいうところのBe動詞「○○は~です。」ではないかと思われます。
例を挙げてみますと、「我是日本人」=「I am a Japanese」=「私は日本人です」
◆「安 政 二 歳」ですが、「安政」は幕末の元号ですので、安政二年(西暦でいうところの1855年)。
◆「在」は在ること、存在すること。
◆「龍」これは「辰」から変化したものと思われ、「辰」には「ふるいうごく」という
意味があり、龍が昇天するときに地が震動することから「地震」を表していると考えられます。
実際に、安政2年10月2日(西暦1855年11月11日)に、安政江戸地震という非常に大きな地震が
あり、その規模はマグニチュード7クラスであったのではないかと云われ、死者は町方において
10月6日の初回の幕府による公式調査では4,394人、10月中旬の2回目の調査では4,741人であり、
倒壊家屋は14,346戸とされ、またこれに寺社領、より広い居住地を有し特に被害が甚大であった
武家屋敷を含めると死者は1万人くらいであったとされています。
話を文字に戻しますが、
◆「輯」は①集める、②和らぐ、③収める、片付ける、④合わせる、⑤作り上げる、為す。
とあり、前の文字、そして左側に続く文面から連想すると、地震(本震、余震)が収まったと
捉えるべきかと思われます。
左側に移り、
◆「旃」は①旗、②毛織物、③これ。
◆「蒙」は①こうむる、身に受ける②暗い、愚か③幼い、④犯す、⑤進んでする、⑥欺く。
◆「卯」は干支でいうところの地支のウサギ。
一字ずつ考えても全く意味が解りませんでしたが、実は「旃蒙」の二文字で熟語となり、
干支の天干でいうところの「乙(きのと)」を表し、次の「卯」と繋げて「乙卯(きのとう)」と
なり、前述の安政2年の干支は「乙卯」でした。
◆「晩 穐」は「穐」が「秋」の異体字であることから、「晩秋」つまり秋も終わる頃。
◆「吉 祥 日」は「吉日」と同じように、縁起の良い日。
◆「鐫」は彫る、つまり鳥居の柱に文字を刻み彫ること。
以上のことから、
「安政二年に起きた地震も収まったので、乙卯の晩秋の縁起の良い日にこれを刻む」
これとは正に反対側に彫られた、「國土安全」と「天下泰平」を意味しています。
江戸の市中はもとより、この川口でも地震により甚大な被害を蒙り、きっと元々あった
鳥居も倒壊したことでしょう。地震が落ち着いたことを受け復興の中にあって、
「今後このようなことが国土に起こらないように、そして皆が平和に暮らせるように」と
切実なる思い、願いを込めて、当時の方々が当社に新しい鳥居を建立したのでしょう。
160年という年月を経た現在の私達も、先人が込められた思いを確かに継承し、
これからの我が国の安心安全を願い、祈り続けねばならないと思いを新たにしました。
以上、自分なりに考察してみましたが、どなたか漢文にお詳しい方がいらっしゃいましたら、
間違っているところをご教授して戴けると幸甚です。